われは草なり



われは草なり
伸びんとす
伸びられるとき
伸びんとす
伸びられぬ日は
伸びぬなり
伸びられる日は
伸びるなり

われは草なり
緑なり
全身すべて
緑なり
毎年かはらず
緑なり
緑のおのれに
あきぬなり

われは草なり
緑なり
緑の深きを
願ふなり

ああ 生きる日の
美しき
ああ 生きる日の
楽しさよ
われは草なり
生きんとす
草のいのちを
生きんとす




 光村図書国語小学5年上「銀河」より、作者は高見順。『重量喪失拾遺』収録作品。
 私がこの詩と出会ったのは、まだ塾の講師をしていた頃。
 当時5年生だった女の子たちが、声をそろえてこの詩を暗唱していたのだった。
 「明日、この詩暗唱せなあかんねん!」と彼女たちは答えた。そして、全員で「われは草なり・・・」とまた始めた。
 その明るい、はつらつとした声の合唱に、この詩が生き生きとしてきこえた。暖かく、清々しい気持ちになった。
 「その詩、先生にも教えて。」
 彼女たちはすぐ、コピーを仕損じた紙の裏に、大きな字で書いてくれた。
 私は、何度も読み返し、また彼女たちの大合唱をくりかえしきいた。
 この詩を諳んじた彼女たちの元気な声が、今でも耳の中に残っている。
 もうこの春には、高校受験真っ只中のはず。
 懐かしい思い出である。

 今回、この詩をとりあげるにあたって、不治の病に冒された作者が、死の恐怖と闘いながら
代表作『死の淵より』などを書いた後、この作品を書いたということを、初めて知った。



     


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